おはようございます!ワラベシンです。
前回の記事で装具全般の話、長下肢装具に関して触れていきました。
長下肢装具は主に急性期や回復期で使われることが多いですが、今回は病期に関わらず利用頻度の高い【短下肢装具】に関して書いていきます。
短下肢装具もいろいろな種類のものがあり、「どれを処方すればいいかわからない」といった方が多いと思います。
今回はその中でも使用頻度が高いものに絞って、その適応や特徴を実際に使用した経験も交えて解説していきます。
この記事を読んでいただくことで、以下のことが解決できます。
結論は【種類は豊富にあり、個人に合わせて調整が必要】です。
前回の記事も併せて読むと理解がより深まります。
短下肢装具とは
短下肢装具は以下のように定義されています。
下腿より足底に及ぶ構造であり、足関節の動きを制御することが可能である。
義肢装具学 第4版 医学書院出版
また短下肢装具のエビデンスに関して、脳卒中治療ガイドライン2015には下記のように記載されています。
脳卒中片麻痺で内反尖足がある患者に、歩行の改善のために短下肢装具を用いることが勧められる(グレードB)
脳卒中治療ガイドライン2015 一部抜粋
つまり短下肢装具とは
膝より下の足首の動きを制御する道具で、歩行能力の獲得・改善に用いられるものといえます。
なおガイドラインについて知りたいという方は以下の記事もご覧ください。
短下肢装具を使う目的
短下肢装具は主に移動手段の獲得することを目的に使用します。
私は理学療法士として回復期リハビリテーション病院(以下:回リハ病院)で働いており、長下肢装具同様、短下肢装具に触れる機会も多いです。
回リハ病院では日常生活動作の獲得という点に焦点を当てて、リハビリテーションを提供します。
日常生活を送るうえで基本動作や移動手段の獲得は切り離すことが難しく、移動手段の獲得やその安全性を担保するために短下肢装具を用います。
例えば、脳卒中患者では足関節の底屈方向への緊張が強くなりやすい(内反尖足)方や、逆に足首を上にあげる力が入らずにつま先が引っかかってしまう方がいます。
そのような方に短下肢装具を用いることで足が引っかかることなく歩くことができ、転倒する可能性を低くすることができます。
短下肢装具の種類
種類は本当に様々なものがあり、プラスチックでできているものから金属でできているものまで幅が広いです。
シューホーンブレース(SHB)

SHBは後面支柱式のプラスチック一体型の短下肢装具です。脳卒中患者への使用頻度も比較的多いです。
SHBの特徴は脱着が行いやすい、軽量である、外観が比較的良い、トリミング(縁取り、型抜きのこと)をしてたわみを付けることができることです。
SHBについては以下の【 脳卒中に対するシューホーン型短下肢装具の形状と適応 】を参考にしてください。詳細に特徴などが述べられています。
上記特徴のみ見るととてもいい装具に思われがちですが、欠点としては良くも悪くも足関節を固定されてしまうことです。
足関節の動きが固定されることで、滑らかな動きは阻害されてしまいます。適応としては内反尖足や膝折れがあるなど麻痺が重度~中等度残存している方になります。
タマラック

こちらの装具の特徴は背屈は促しつつ、底屈角度に制限をかけることができることです。
膝折れはそれほどないが、内反尖足が見られる方や、足の振出時に足の底屈があり、クリアランスが低下している方が適応となります。
背屈角度が保たれることで、装具を付けている側の股関節の伸展を促しやすくなるため、SHBに比べて効率の良い歩行が可能となります。
オルトップ

オルトップはSHBをトリミングし、かかと部分を削ることで、固定性を下げたわみを持たせた装具です。
この装具の特徴として、足の継ぎ手はありませんが、たわみがあるため、ロッカーファンクションを引き出すことができます。
トリミングの程度でたわみは調整できるため、歩行能力に合わせて調整することができます。
SHBやタマラックに比べるとサイズが小さく、かかとのトリミングも行われているため、靴が履きやすく、自宅に帰ってもおしゃれな靴を履きたいという方には適しています。
両側金属支柱

この装具の特徴は矯正力・固定力が強いことです。
見た通りではありますが金属でできており、装具の耐用年数もプラスチックタイプに比べて長いです。
足継手はクレンザックやゲイトソリューションなどの種類があり、患者さんの状態に合わせて選択する必要があります。
靴一体型と装具と靴は別になっているものがあり、屋内で使用するのであれば、装具と靴が別になっているものが良いです。
底背屈の制限の調整や、ゲイトソリューション継手を用いれば制動の調整もできることから、リハビリ介入時の評価目的には便利です。
一方で外観が良くないことと重量があることから、自宅で使用するには向いていないと言わざるを得ないです。
実際に自宅に退院されてから使っていない方が多く、患者さんの予後、歩き方、今後の生活を十分に考慮したうえで、この装具でないといけないという方以外にはお勧めはしません。
ゲイトソリューション・シリーズ

ゲイトソリューションとは継手が油圧でコントロールできるもので、ゲイトソリューションデザイン(以下:GSD)という装具や上記のプラスチック型装具および金属支柱型装具の継手がゲイトソリューションを使用している場合があります。
この装具の特徴はかかとを接地した後の足関節の動きを制動できることです。
油圧を利用することで、かかとをついた後に足全体が接地する時間をかせぐことができます。
そうすることで、体重移動が滑らかになり、反張膝を抑制することができ、効率の良い歩行を実現できます。
またGSDはデザイン自体もおしゃれで、靴もスニーカーなどであれば履くことができます。
適応としては著しい足部の変形や拘縮がない、著明な膝折れや反張膝がないなど、軽度の麻痺であることが条件となります。
おススメの論文としては大畑光司先生の【Gait Solution付短下肢装具による脳卒中片麻痺の運動療法とその効果】(※)です。この論文一つで以下のことが学べます。
②ゲイトソリューション付短下肢装具にできること・できないこと
※ 医中誌掲載のため、URLを張ることができませんでした。この論文はPTジャーナル・第45巻第3号・2011年3月の特集ページに掲載されています。 「論文読むの苦手」という方でも読みやすい内容です。ぜひ!
どの装具を処方すればいいのか
上記で特徴や適応については軽く触れていますが、患者さんによって全く変わってきます。
麻痺が重度で歩行時に容易に膝折れが起こる方は、そもそも長下肢装具を作成する方がいい場合もあります。
退院後に自宅で使う必要がある方は、外観などを考慮すると金属支柱タイプよりプラスチックタイプの方がよいです。
足首を自分で動かせず、下垂足や内反尖足になる方は、ある程度固定性のあるSHBやタマラックが良いでしょう。
麻痺は軽度だけど足首の力が弱く、効率よく歩くことができない方には、オルトップやGSDなど油圧式の装具を利用する方がいいです。
しかし、脳卒中による運動麻痺は急によくなるわけではなく、入院時は長下肢装具でなければ歩けなかった方が、退院時には装具なしでも歩けるようになるという方もいます。
また、脳卒中による障害は運動麻痺だけではありません。感覚障害や高次脳機能障害といった様々な要因で、歩行が困難となるケースがあります。
そのため、入院時からDrに相談しながらその患者さんの予後を予想し、先を見据えた装具の選定を行う必要があります。
・麻痺は重度か軽度か(随意性や感覚障害の程度など)
・脳画像等を参考にした予後は良いのか悪いのか
上記チェックポイントは最低でも押さえておきたいところです。
私の失敗談:案外忘れがちだけど大事なこと
装具を使用することで、移動手段の獲得できる可能性が増えるといったメリットがあることを述べました。
しかしある意味一番大事だけど、案外忘れていることがあります。
それは装具の着脱のしやすさです。
装具を付けることで歩くことができる方がいるとします。しかし、その方は自分で装具を付けることができません。
先輩「誰が装具を付けるの?」私「・・・。」
※実話です。
脳卒中により片麻痺になられた方は、半身の手足が動かなくなる方が多くいます。
極端な話、片手で装具の着脱を行わなければならない場合もあります。
装具を作るには何万~何十万というお金を支払う必要があります(※)。退院後に自宅で作るために装具を作成したのに、自分でつけられないので意味がありません。
※医療保険の利用で自己負担額は減りますが、一旦全額支払う必要があるため、上記金額を記載しています。
装具の作製を行う前に、手の予後についてDrや作業療法士と情報交換を行ったり、実際に装具を作成する際に義肢装具士に相談することをおすすめします。
まとめ
今回は短下肢装具の種類やその特徴を中心に、【どの装具を処方するべきか?】といったことを書いていきました。
冒頭にも書いていますが、今回紹介したもの以外にも短下肢装具には種類が豊富にあります。
また、患者さんの予後を予測したうえで、どこで、いつ、使用するのかといった点や脱着のしやすさといった観点を総合的に判断する必要があります。
自分だけで判断せず、職場の先輩理学療法士や作業療法士、Drや義肢装具士にも相談しながら、その方に合った装具を作成する一助になれば幸いです。
長くなりましたが、最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
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