理学療法士が知っておくべき下肢装具(長下肢装具編)

リハビリ・医療関係

おはようございます、ワラベシンです。

私は普段回復期リハビリテーションの病院で働いており、脳卒中の方々を中心に関わらせてもらうことが多いです。

リハビリテーションは大きく3つの時期に分けられます。

発症後すぐの急性期、症状が落ち着いてリハビリを頑張る回復期、ある程度症状が固まり普段の生活にコミットしていく生活期

ニュアンスとしてはこのような感じです。

以前は【病気の発症後はとにかく安静】が主流でした。

しかし今は【早期から離床し、積極的なリハビリを】が主流です。

(もちろん症状が安定していることが条件です)

脳卒中などの病気により、運動を行いたくても思うように動くことができない方は多いです。

そんな時に役に立つのが長下肢装具です。

今回は、そもそも装具とは何かということを踏まえて、長下肢装具についての説明を。

また使用目的やどのような方に使えるのか(適応するのか)という点も解説していきます。

結論は

【早期離床を促すには長下肢装具は絶対必要】

です。

装具とは

義肢装具学(第4版)では装具のことを以下のように定義しています。

装具は「四肢・体幹の機能障害の軽減を目的として使用する補助装具」

義肢装具学(第4版)より抜粋

つまり手足や体の障害に対して、その障害を軽減する目的で使用します。

下肢装具について

装具の中でも足の障害に対して用いるものを下肢装具といいます。

足先から骨盤まで覆うものや、靴型のものなど大きさや種類は豊富ですが、いずれも立位・歩行に必要な足の機能をサポートします。
下肢装具には大きく分けて、「股装具」「長下肢装具」「短下肢装具」「膝装具」「足底装具」「ツイスター」「先天性股脱装具」の7つの分類に分けられます。

今回はその中の一つである、長下肢装具について解説します。

長下肢装具とは

長下肢装具とは 大腿部(ふともも)から足先にまで及ぶ構造をした装具です。

膝や足関節の継ぎ手の種類や装具の素材など細かい調整が必要ですが、今回は一般的によく使われているであろう、金属支柱タイプの長下肢装具の解説を行います。

なお、長下肢装具は自分で装着し使用するのではなく、リハ介入時の補助道具として用います。

装着することで立ったり歩きたりといったことが自分でできるようになるものではなく、以下の目的のために使用します。

目的1 介助量を減らす⇒廃用症候群対策になる

まずリハスタッフ側の介助量を減らすことができます。

脳卒中片麻痺の方のリハビリに介入し、今から立位や歩行練習を行うと仮定します。

足に全く力が入らない方を動かす場合、膝が曲がってしまい(膝折れといいます)、まず患者さん一人で立っていてもらうことも困難です。

そこから歩かせようものなら、折れる膝を支えながら人一人を抱えて歩かせるような状況になります。

普通に考えてスタッフ側もしんどいし、やられる患者さんもしんどいし痛いしで嫌ですよね?

そんな時、長下肢装具を使用することで、膝折れを防ぐことができます。

膝折れがなくなれば膝を支えておく必要はありません。装具にお任せです。

つまりスタッフの介助量が減り、楽に立位や歩行の練習を行うことができます

介助量が減ることで1回のリハビリの中で行える運動量が増えます。

運動量が増えれば回復が早くなる可能性もあります。

質も大事ですが、量あっての話です。まずは量をかせぎましょう。

そして量が増えれば自然と筋肉や体力もついてきます。

病気になり寝たきりになると、筋力や体力はすぐに落ちてしまいます(廃用症候群といいます)。

しかし落ちた体力などを戻すには時間がかかります。

早期から装具を使った運動を行うことで、廃用症候群の予防・改善が期待できます。

脳卒中治療ガイドライン2015では

歩行障害に対するリハビリテーション

歩行や歩行に関する下肢訓練量を多くすることは、歩行能力の改善のために強く勧められる(推奨グレードA)

脳卒中治療ガイドライン2015より一部抜粋

と記載されています。

下肢訓練量を多くするためにも、積極的な装具の利用が望まれます。

ガイドラインに関して知りたい方は下記のページもどうぞ

目的2 運動自由度を減らす(簡単にする)

また、運動自由度を減らすことも長下肢装具の利点です。

長下肢装具を使用すると足首や膝の動きを固定します(※)。そうすると足のうち動かせる個所は股関節のみとなります。

動かす場所が1つだけになることで、運動の難易度を下げることができる。

つまりやらなければいけないことが少なくなり、動きが簡単になります。

脳卒中の方などで足に麻痺があると、思うように足を動かすことが難しくなります。動かす場所を一つに絞ることで、集中して取り組むことができるようになります。

(※)使用する装具の継ぎ手などにより、足の角度や動かす範囲を調整ができるものもあります。

目的3 運動学習が行いやすい

脳卒中などで足に麻痺があると、歩くことができなくなる場合があります。

では、また歩けるようになるにはどうするのか?

当然、歩く練習をすることが大事です。

もちろんただ歩くだけでなく、歩くのに必要な筋力の強化であったり、体の柔らかさも大事です。

ですが、歩くためには歩く練習をしないことにはよくなりません。

ウ〇ニング〇レブンをしていても、サッカーが上手くならないのと同じです。

装具を付けてでも歩く練習を行うことで、歩くときに必要な筋肉が使われます(※)。使う頻度が多ければ、足の使い方も覚え、徐々に効率よく動かすことができます

(※)足には【抗重力筋】と呼ばれる筋肉があります。これは簡単に言うと重力に対して働く筋肉です。つまり、足の筋肉は立ったり歩いたりするだけで、ある程度は自分で意識しなくても動かすことができます。

適応となる方

長下肢装具の適応となる疾患

①脳血管障害後の片麻痺(例:右半身が動かない)、②脊髄損傷後の対麻痺(例:腰から下が動かない)、③急性灰白髄炎後の弛緩性麻痺(力が入らない)

これらの方が主に知られています。

また適応となる病態

下肢全体の支持性が低下している重度弛緩性麻痺や下肢屈筋共同運動パターン、あるいは重度感覚障害、または半側空間無視などの高次脳機能障害、その他膝関節拘縮などにたいしても用いられます。

私自身の経験と長下肢装具の現状

私の所属する病院では脳卒中に罹患された方が多く、長下肢装具はほぼ毎日利用します。

入院された時は一人では立つこともできず、歩くことなど到底できないという方も長下肢装具を使った歩行練習などを行います。

そうすると徐々に足に力が入るようになり、一人立つことや杖を使って歩くことができるようになる方も多くおります。

また各種関連学会での発表や論文を見ても、長下肢装具を利用したことにより歩行速度に改善が見られた等、良好な結果を示す報告も見られます。

しかし、【本当に長下肢装具を使用したことによる効果なのか】という疑問が残ります。

その裏付けにもなりますが、脳卒中治療ガイドライン2015には短下肢装具の使用は推奨されるといった文言がありますが、長下肢装具の使用に関する文言は現時点(2020年2月)ではありません。

この件については全国的に研究・報告を行い、エビデンスを高めていく以外に方法がないかと思います。

まとめ

今回長下肢装具に焦点を当て解説していきました。

現在リハビリテーションは発症後早期からの積極的な介入が必要であること。そのためのツールとして長下肢装具の利用は有効であること(廃用症候群の予防・改善など)を述べてきました。

しかし、まだまだ長下肢装具の効果ははっきりとわかっていないこともあります。

長下肢装具を使用した運動療法は、治療手段の一つに過ぎません。

患者さんの状態に合わせてオーダーメイドの介入が行えるよう、知識をアップデートしていく必要があります。

長くなりましたが、今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

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